Eno.616 カツマ(湿度100%)

瓶に入った手紙

(瓶に詰められた手紙だ。送る宛が無いから、流すことにしたのだろう)


島の探索をしていると、瓶を見つけた。
中に紙が入っている。取り出して、文字を追えば、その宛名に目を丸くした。

「なんで・・・」

呆然と呟くのに、目を離せずに文字を追いかけてしまう。




『桐生さんへ。

本当は多分、思い出とか感謝とか、そういうことを書くべきなんでしょう。
でも、一番に出て来る言葉は「酷い」なんです。

桐生さん、あなたは本当に酷い人でした。
助けを求めたら、手を取ってくれて。それなのに、仮の助けだなんて言って。
桐生さんがいいって言ったのに、「ちょっとの間だけ」って条件を付けて。
大規模作戦の間は助けてくれるって約束したけど、終わったらすぐに居なくなりましたね。
助けてもらえなくなっても、どこかで元気にしていてくれたら、それでよかったんです。
あなたにとっての良い思い出になろうと思ったから、いい子で居ようと思ったのに。

なんで死んじゃったんだよ。
僕には「生きててね」って言ったくせに。
映画の感想、誰に言えばいいんだよ。
貰った物を無駄にするわけにいかないから見には行きますけど、こんな状況で楽しめるわけないだろ。

死んだなんて信じたくないけど、桐生さんは最初からそのつもりだったんじゃないかって気持ちが消えてくれません。
時間を巻き戻して直接聞いたとしても、いつもみたいにはぐらかされるんだろうな。
本当に酷い。酷い人です。
以前の僕と同じだから仕方がない部分もありはするけど、それでも。
傍に居て、話を聞いてくれて、感情を整理するのを手伝ってくれて。
桐生さんが居なかったら、助けて欲しいなんて気持ちにもきっと気付かなかったのに。
近付いたらするっと逃げて、答えてくれてるようで突き放されて。
誕生日や靴のサイズは教えてくれたけど、大事なことは何一つ教えてもらえなかった。

30になったって、本当ですか?
僕をあと15年生かす為に、適当なこと書いたりしてませんか?
「いつでもどうぞ」なんて書かれたら、逆に開けられないじゃないですか。
僕は、桐生さんと違って誤魔化しません。あの封筒は、ちゃんと30歳になれたら開けます。
だって、その方が嬉しいんでしょう?
誕生日の無い年だから、ピッタリ当日には読めませんけどね。
法律上は前日に歳取りますから、多分その時読みます。

言いたいこと、他にもいっぱいあるし、あったんです。
でも、まだ気持ちの整理が上手くできてないんでしょうね。
聞き上手なあなたが居ないせいか、「酷い」って単語ばっかり浮かんでしまいます。
桐生さんがいいっていう我儘を聞いてもらえなかったことや、掻き回されたことは許せるけど
どうしても、死んじゃったことだけは許せそうにないです。ごめんなさい。

延々と罵ってしまいそうなんで、この辺りでやめておきます。
もう少し経って気持ちが整理できたら、また手紙書きます。
その時は、ちゃんと感謝が伝えられたらなって思います。それでは。』




最後まで読み終えた手紙には、ひどい皺をつけてしまっていた。
誰が書いたかわからない手紙。何度も文字と、誰かの思い出をなぞる。